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横須賀石炭火力発電所行政訴訟東京高等裁判所判決についての原告・弁護団声明

2024年2月22日

2024年2月22日、東京高等裁判所の判決に対して原告・弁護団から以下の声明を発表しました。

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横須賀石炭火力発電所行政訴訟東京高等裁判所判決についての原告・弁護団声明

    2024年2月22日
横須賀石炭火力発電所行政訴訟原告団
横須賀石炭火力発電所行政訴訟弁護団

昨年、2023年は、産業革命開始以来最も暑い年であり、ヨーロッパでは6万5000人を超える人々が熱中症で死亡し、日本でも9万人を超える人々が熱中症で救急搬送された。森林火災も各地で起こり、豪雨によって多くの人々の生命と財産が奪われている。国連のグテーレス事務総長は、もはや地球温暖化ではなく、地球沸騰化だと発言し、また、別の時には、気候崩壊とまで表現した。

こうした中で、世界の二酸化炭素排出量の5000分の1を排出する、横須賀石炭火力発電所(以下「本件発電所」という)の建設及び操業に係る経済産業大臣の2018年11月30日付の環境影響評価適合通知の取消を求める行政訴訟(控訴審)(控訴人・原告 鈴木陸郎ら45名、被告 国)について、本日(2024年2月22日)午前11時、東京高等裁判所は、原告らの請求を棄却した一審判決をそのまま維持する、控訴棄却の判決を下した。

本件発電所は、1960年代から操業してきた横須賀火力発電所(石油)が2000年以降順次操業を停止し、2013年には完全に停止し廃棄を待つばかりとなっていたところ、2015年に旧来の発電所を「改善リプレース」するものとして、建設・操業が計画された。

控訴人・原告らは、温排水や温暖化による漁業被害、気候変動による豪雨の増加での土砂災害被害、熱中症の危険など、具体的な生命・健康・重要な生業といった重要な法的利益が侵害されている。本件発電所の計画がされた2015年12月には、気候変動についてのパリ協定が締結され、世界の平均気温の上昇を産業革命前から2℃を十分に下回る水準に抑制し、1.5℃まで抑制することにも努力することが国際合意となった。大量の二酸化炭素を排出する石炭火力発電所をいかに削減していくかが国際的な課題となっている中で、新たに年間726万トンもの二酸化炭素を排出する本件発電所が計画された。

本件発電所を建設・操業開始するには適切に環境アセスメントを行う必要があったところ、本件環境アセスメントにおいては、第一に、天然ガス火力発電(石炭と比較して二酸化炭素排出量を半減し、有害物質も大幅に削減される)との比較など、発電燃料種についての代替案(複数案)検討がなされなかった。また、「改善リプレース」合理化ガイドライン(2012年)等を適用して簡略化し、① 温室効果ガスの排出による環境影響について計画段階配慮事項に選定せず、② 温排水による重要な漁獲資源への影響などが実態調査や温排水による漁業への影響予測もされず、③ 大気汚染に関する現地調査も省かれ、必要な予測もおこなわれなかった。

しかるに、東京高等裁判所は、控訴人・原告らの請求を棄却する原審判決を維持した。

同判決は、地球温暖化による被害について全く触れていなかったという原審判決への批判を意識し、IPCC第五次報告書と1.5℃特別報告書の記載を引用した上で、「気候変動により日本を含む世界各地における気象災害や海洋の状況の変化等が生じ、人々にさまざまな被害をもたらしていることが深刻かつ重大な事態であることは言を待たない」と判示した。

ところが、
第一に、本件控訴人・原告について、地球温暖化被害については、「本件新設発電所の稼働による二酸化炭素の排出が地球温暖化に寄与するとしても、同排出に起因する事象による被害のおそれを本件新設発電所周辺の居住者等の特別の範囲の者との関係で特に増大させるものとは認められない」とし、地球温暖化被害について、控訴人・原告適格を否定した。

第二に、地球温暖化についての環境アセスメントについても、「本件新設発電所単体から排出される二酸化炭素により、地球規模で進行する温暖化に伴う災害等による被害の規模ないし頻度が有意に増大するものとは認め難い」として、温室効果ガスの排出による環境影響について計画段階配慮事項に選定しなかった(したがって検討も調査も予測もしない)ことは、違法でないとし、さらに、石炭以外の燃料種との比較検討も不要とし、「局長級会議とりまとめ」(2013年)に沿ったUSC設備の採用、自主的枠組みへの参加等の検討がされていればいいとした。

第三に、「環境影響の低減が図られる」場合に認められる、環境アセスメントの簡略化についても、「近時の稼働時と比較して現実の環境影響が低減することを求めるものではない」として、過去15年以上の間(2000年以降)の状況と比較させると明らかに環境悪化しているにも関わらず、昭和45年当時の稼働率を前提として、その当時の状況と比較して、新設発電所の影響が軽減されるから、「改善」だとして、違法な簡略化はないとした。

 

第一の点については、「特に」とか「特別の」という曖昧な表現を用いて、地球温暖化被害に向きあわないものである。第二の点は、環境影響を最小化するための検討という環境アセスメントの制度趣旨を理解しないものである。第三の点は、現実の環境影響を調査すべきとする環境アセスメントの趣旨に反する。

それらの点で、今回の判決は、深刻化する地球温暖化の被害に向き合わない不当判決と言わざるを得ない。

本件事業者は、本件発電所の操業開始によって多くの人々の生命と健康を危機にさらし、漁業の崩壊を招く本件発電所の発電事業を中止すべきである。また、日本政府は、世界の人々を危機にさらす本件発電所を含む石炭火力発電所についての施策全般を見直し、石炭火力発電所の早急なる廃止を進めるべきである。